『都市―人間生態学とコミュニティ論』パーク,バーゼス,マッケンジー,1925 ― 都市の拡大は何をもたらすか

本書は、初期シカゴ学派の代表的論文が収録されている論文集である。収録されている論文の貯砂であるR.E パーク、E.W バーゼス、R.D マッケンジーはいずれもシカゴ学派の黄金期を築いた社会学者であり、彼らを中心に実践的な都市研究が開拓された。なかでもパークの論文「都市―都市環境における人間行動研究のための若干の提案」は、現在の都市社会学におけるバイブル的作品であり、都市社会学における基本的論点のほとんどが含まれている。

この記事では本書に含まれる論文のうち、バーゼスの「都市の発展―調査計画序論」を紹介したい。この論文は初期シカゴ学派を代表する「都市の同心円理論」について述べられており、また基本的な都市社会学の関心が簡潔に表れている。

E.W バーゼス 「都市の発展―調査計画序論」

近代社会を大きく特徴づけているものの一つは、間違いなく大都市の発展だろう。近代社会に特有の現象のほとんどが都市部において見られるという事実は、大都市が近代社会を表象する空間であるためともいえる。

資本・技術・労働力の一極集中は、それ以前と比べて明らかに効率的な社会発展をもたらした。実際に、都市的な経済・技術システムは人々の平均的な生活水準を大幅に上昇させた。そして、都市がもたらす発展を真っ先に享受するのはもちろん都市に住む人々である。都市において生活水準の向上が見られる一方で、離婚、非行、貧困などの「社会問題」が最も極端な形で表れるのもまた都市においてである。こうした急速な変化をもたらす根源的な力を、「都市の物理的拡大の過程」という尺度から明らかにしていく。

都市の物理的拡大

都市の物理的拡大はどのように起こるのか。「都市拡大化の典型的な過程は、おそらく一連の求心的円周によって端的に例証されるであろう」。

以上の図が、都市における諸地域の類型が放射状に拡大していく過程を示した図である。もちろん、この図は地形やインフラ設備などの特殊条件を排除した上で成り立つ理念的な構図である。

都市の拡大都市は、(Ⅰ)の中央ビジネス地区から放射状に広がっていく。この地域には、摩天楼、美術館、百貨店、行政施設などの都市機能の中枢機能が集中している。そしてその周囲に、(Ⅱ)土地利用が不安定な軽工業地帯が広がる。この地域はスラムや低所得者層の居住地帯となりやすい。(Ⅲ)の地域は、比較的治安が安定しており通勤にも都合の良い一般的な労働者が居住する地域である。ここを超えると、(Ⅲ)高級アパートやホテルなどが立ち並ぶ高所得者層向けの住宅地帯が現われる。

都市の拡大は、それぞれの内部地帯が接続している一つ外部の地域に侵食していくことによって起こる。すなわち、都市は(Ⅰ)の地区が形成されてから(Ⅱ)の地区が、(Ⅱ)の地区が形成された後に(Ⅲ)の地区が形成されることで拡大するのではなく、元々類型化されている諸地帯が等差的に拡大していくのである。

都市の物理的拡大と社会的環境

以上が都市の物理的拡大の諸過程である。ここで、僕たちは都市における物理的環境と社会的環境を区別しなければならない。物理的環境とはこれまでの述べてきた通り人々の生活する空間的条件であるが、社会的環境とはつまり人々のコミュニティのことである。人々は物理的環境だけでなくコミュニティに多くを依存して生活している。コミュニティが正常に作動することが人々が安定的に生活するための条件であるが、都市の物理的拡大は都市における社会的環境にはどう影響するのだろうか。

物理的環境の拡大が社会的環境の拡大とつり合っている場合には、都市は正常に稼働するだろう。しかし、物理的環境の拡大が都市の社会組織の発展以上に急速である時、疾病、犯罪、無秩序、不衛生、自殺などの社会問題が生じることになる。物理的環境の変化は、一般的に社会組織を解体させる方向に作用する。例えば、現代において巨大なショッピングモールの建設が地域商店街の衰退を招く要因になっていることなどは、物理的環境の変化による社会組織の解体の一例だろう。物理的環境の変化すなわち社会組織の解体作用が、社会組織の再組織化以上の速度で進行することによって社会問題が生じるが、ところで、大都市においてこのことは往々にして発生しているのである。

物理的拡大の指標となる移動性(mobility)

それでは、急速な物理的環境の変化の原因となっているものは一体何なのだろうか。これについて、バーゼスは「人口の内部的移動」に着目する。すなわち、都市における過度な移動性(mobility)が社会解体の一つの要因なのである。ここで言う移動性は、単なる空間的移動だけではなく、変化、新しい経験、刺激なども含む概念である。人間にとって、移動によって得られる刺激や経験は人間的な成長に不可欠なものである。個人が正常に成長できる限りでの移動は健全なものと言える。しかし、個人がコントロールできないほどの過剰な移動性は社会解体をもたらす病理的な傾向と言える。都市において発生する違法薬物の蔓延や性非行はその一例だろう。

「刺激の量と質との増加とともに、都市生活の移動性は、不可避的に、人間を混乱させ、また不道徳にさせる傾向がある。ということは、規範や人間の道徳性の本質は、その不変性にある。そしてその不変性は、第一次的集団の社会的統制に自然に見られるタイプのものであるからである。近代都市の頽廃的地帯に見られるように、移動性が非常に大きく、その結果、第一次的統制が完全に崩壊されているところでは、風紀紊乱、無秩序さ、悪徳の地域が発展している。」

バーゼス 『都市の発展―調査計画序論』

都市における移動性は、数量的に把握することができる。車両の流通台数、道路・鉄道の交通量の推移、配達された手紙の数、一人当たりの通話料、地価の変化などは、いずれも都市における人々の移動性を測定指標となり得る。社会組織の趨勢と密接に繋がっている移動性は、「コミュニティの鼓動」として考えることができるのである。


シカゴ学派の都市研究は、都市社会学だけでなくその後の社会学全域に大きな影響を及ぼしている。シカゴ学派の研究は、ヨーロッパ大陸で勃興した「書斎の学問」とはまったく異なる方法で社会に対してアプローチを開拓した。それは、以前紹介した初期シカゴ学派の遺産であるエスノグラフィーを見ても明らかであろう。

もちろん、初期シカゴ学派の理論の多くには数々の問題点が存在する。例えば、空間的要素を重視するあまり時間的要素を軽視していないか、シカゴで行われた研究がどの程度他の都市に応用可能なのか、権力構造・支配構造・階層構造といった問題意識が欠如しているのではないか、などである。このような問題点に対して社会学がどのように解答してきたのか、今後調べていきたい。

参考文献)

R.E パーク,E.W バーゼス,R.D マッケンジー (1981) 『都市―人間生態学とコミュニティ論』 大道安次郎,倉田和四生訳,鹿島出版会

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